「本格ミステリ作家クラブ通信」第77号

1.第20回「本格ミステリ大賞」候補作決定

【小説部門】候補作(タイトル50音順)
『或るエジプト十字架の謎』柄刀一(光文社)
『教室が、ひとりになるまで』浅倉秋成(KADOKAWA)
『紅蓮館の殺人』阿津川辰海(講談社タイガ)
『滅びの掟 密室忍法帖』安萬純一(南雲堂)
『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』相沢沙呼(講談社)

【評論・研究部門】候補作(タイトル50音順)
『江戸川乱歩新世紀 越境する探偵小説』石川巧・落合教幸・金子明雄・川崎賢子(編)(ひつじ書房)
『シャーロック・ホームズ語辞典 ホームズにまつわる言葉をイラストと豆知識でパイプ片手に読み解く』北原尚彦(文)、えのころ工房(絵)(誠文堂新光社)
『探偵が推理を殺す』小田牧央(the lomg fish/Amazon kindle)
『短編ミステリーの二百年1』小森収(東京創元社)
『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』長山靖生(河出書房新社)

第20回「本格ミステリ大賞」候補作決定のための予選会は2月15日に、大賞運営委員・霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太の立ち会いのもと、予選委員・青井夏海、芦辺 拓、イクタケマコト、大森滋樹、松本寛大によって行われた。

▼選考経過

【小説部門】
 予選委員から挙げられた推薦作は十二作。会員アンケートが多かった順に、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、『紅蓮館の殺人』、『或るエジプト十字架の謎』、『魔眼の匣の殺人』、『教室が、ひとりになるまで』、『そして誰も死ななかった』、『Ⅰの悲劇』、『ベーシックインカム』、『時を壊した彼女 7月7日は7度ある』、『予言の島』、『滅びの掟 密室忍法帖』、『珈琲城のキネマと事件』であった。
 このうち予選委員四人が推した『medium』については、タイトルから探偵役のキャラクター設定にいたるまで計算された本格ミステリとしての完成度の高さが支持され、異論もなかったため、早々に候補作に決まった。
 次に予選委員三人が推薦した『教室が、ひとりになるまで』、『紅蓮館の殺人』、『或るエジプト十字架の謎』の三作の検討がなされた。『教室が~』については、探偵役の造形が現代的で学園ミステリの新展開として賞賛する声が強く、反対意見も出なかったため、候補作に決まった。『紅蓮館~』は探偵役に工夫を凝らした堂々たる本格ミステリと推奨する意見が多かった反面、トリックがわかりづらいという異論も出たため、『或るエジプト~』はロジックの積み上げ方が手堅いオーソドックスな本格ミステリという点が高く評価されつつも、突出した点がないという声があったため、この段階では保留された。
 続いて予選委員二人、または一人が推した八作について、推薦理由が述べられ、順次審議された。『魔眼の匣の殺人』は前作をしのぐほどの特殊設定の妙が、『そして誰も死ななかった』は著者ならではの異様な世界観が、『Ⅰの悲劇』は美しくまとまったミステリとして、それぞれ評価された。また、『ベーシック・インカム』はSFの形式を借りた構成が、『時を壊した彼女』は論理への強いこだわりが、『予言の島』はホラー小説とミステリの融合のさせ方が、美点として挙げられた。
 最後に会員アンケートでは挙がらなかった『滅びの掟』と『珈琲城のキネマと事件』の二作を推した予選委員から、前者は忍法帖ならではの大胆なトリックとストーリーが痛快、後者は著者久々の本格ミステリとしての意欲作と推薦理由が語られ、全員で議論された。
 ひと通り全作の検討が終わったところで、先に候補作に決定した二作をのぞく十作で多数決をおこなった。その結果、『紅蓮館の殺人』、『或るエジプト十字架の謎』、『滅びの掟』が票を集め、候補作に残った。(鳥飼否宇)

【評論・研究部門】
 予選委員の推薦作に挙げられたのは、石川巧他編『江戸川乱歩新世紀 越境する探偵小説』、北原尚彦+えのころ工房『シャーロック・ホームズ語辞典』、小田牧央『探偵が推理を殺す』、小森収編『短編ミステリの二百年1』、法月綸太郎『法月綸太郎の消息』、長山靖生『モダニズム・ミステリの時代』、有栖川有栖『論理仕掛けの奇談』の七作だった。
 全員の支持を得た『モダニズム・ミステリの時代』は、歴史と社会論の観点からミステリに光を当て、往時において探偵小説が新鮮だった理由を示し、探偵小説の見え方を変えるものと評された。『短編ミステリの二百年1』はシリーズの一部であることを踏まえたうえで、江戸川乱歩編〈世界推理短編傑作集〉で止まっていた知識をアップデートし、ミステリと短篇の相性の良さを確認しつつ、読み直しによって文化史を掘り下げる試みとして四票を集めた。
 両作が候補に決まった後、他の三作を選ぶための検討が行われた。『探偵が推理を殺す』は断言を避けるスタンスへの疑問が呈されたものの、現代作品を中心に広範囲の整理を行うことの意義が認められた。『シャーロック・ホームズ語辞典』に関しては、ホームズに特化した射程の狭さは否めないが、辞典の形を採った研究・案内書として面白く、実在したアイテムのイラストにも価値があるという声が強かった。人気作家が黒子に徹した『論理仕掛けの奇談』は、知識を共有しない読者にスタンダードになり得るミステリの読み方を提示し、通史としても機能すると全員が内容を讃えたものの、文庫解説を束ねたものを評論賞に推すことに意見が割れる形となった。
 具体的な資料を多用した『江戸川乱歩新世紀 越境する探偵小説』は、乱歩関連の評論が続くことを差し引いても、作家の内面にメスを入れ、映画との繋がりを示した功績が大きいと論じられた。『法月綸太郎の消息』をめぐっては、小説が評論扱いされる本格ミステリらしさを興味深いとする発言もあったが、小説のスタイルゆえに事実関係の曖昧さが残る、収録作の半分が一般的なミステリであるなどの指摘を覆すには至らなかった。
 最終的には(選考中の変更を含む)各人の投票に従い、先の二作に『探偵が推理を殺す』『シャーロック・ホームズ語辞典』『江戸川乱歩新世紀 越境する探偵小説』を加えた五作が候補となった。(福井健太)

▼選評

◎青井夏海
 小説部門では、逃げも隠れもしない本格として『紅蓮館の殺人』を、特殊設定の極みとして『そして誰も死ななかった』を、それぞれの意味で「今」と対峙する作品として『Iの悲劇』『ベーシックインカム』を推しました。予選委員による推薦作の数が前回よりも絞られていて、そこからさらに五作に絞り込むのはかえってむずかしく感じられましたが、一作一作の魅力についてより多くの時間をかけて話し合うことができ、合議の妙というべき結果になったと思います。
 評論・研究部門は『モダニズム・ミステリの時代』『論理仕掛けの奇談』『短編ミステリの二百年1』『シャーロック・ホームズ語辞典』を推しました。『江戸川乱歩新世紀』は、去年も乱歩だったし、と密かに態度を保留していたのですが、話し合いの結果そんなことはまったく気にする必要がないと深く納得し賛同しました。二年にわたりとても貴重な経験をさせていただき感謝しています。

◎芦辺 拓
 何が嫌いといって「浸透と拡散」という言葉ぐらい嫌いなものはないのですが、どうやらわが本格ミステリはそれと無縁であり続けているようです。小説部門では、新世代作家による新しい文章とキャラクターの、しかしクラシック・パズラーの愉悦を味わわせてくれる作品と多く出会えましたし、中堅・ベテランの果敢な試みもあり、今あえてトリックを突き詰めたもの、ミステリの技巧をホラーに生かしたもの、端正さで群を抜くものなど、「本格」の今後に大いに楽観を抱かせる予選となりました。アンケート外から『珈琲城のキネマと事件』『滅びの掟 密室忍法帖』を推し、高評価を得たのもうれしいことでした。
 評論部門に関しては、みごとなまでにバラエティに富んだラインナップとなり、内容の比較がしにくいのではないかと思われるほどですが、これまた今の本格シーンの反映ではあるでしょう。というわけで、予選委員の重責も今回にてお役御免となります。

◎イクタケマコト
 推薦された作品から候補作を五作品に絞るのに苦労しました。多かった連作短編や特殊な設定など作品構造の部分は考えませんでした。他の委員の講評を聞いて、意見を変えた作品もあります。が、会議の結果に異論はありません。本格ミステリということと会議の流れの結果だと思います。
 今回選ばれませんでしたが、『ベーシックインカム』の個々の短編の良さとラストの展開、『予言の島』のホラーとミステリの融合のさせ方など両作品とも作品そのものの見方を変えてしまう構成に加え、時代のタイミングからも今広く読んで貰いたい作品だと思います。
 評論・研究部門は概ね自分の考えの通りでした。特に『シャーロック・ホームズ語辞典』は内容はもちろん、イラストレーターとして外せませんでした。イラスト可愛い。
 最後に両部門で作品内容とは別の点で迷う作品があり、選考の難しさを感じた事を付け加えておきます。

◎大森滋樹
 評論・研究部門は『探偵が推理を殺す』を推した。冒頭に書かれている通り、「新しいものは何もない」のだが、現代本格ミステリの見取り図を示し、交通整理してくれた作業を高く評価したからである。
 小説部門では『medium』と『教室が、ひとりになるまで』を強く推した。前者は日常生活でも人間不信になりそうなほど、見事に騙された。後者は学校を利用して政治力学(スクールカースト)、宗教劇(神殺し)、異能バトル、探偵の孤独を描いた昨年の大収穫作品。これほど探偵とワトソン役の絆が強調される昨今、『教室』では、ワトソン役の生徒が「おまえ、何秘密にしてんだよ!」とホームズ役の生徒をぶん殴り、鼻血大出血。「おまえとは友達になれると思っていた」のひと言も、ある事情で嘘だと分かる。探偵は孤独だ。しかし、それでも有形無形の暴力に抵抗し、真相に迫る。ミステリ的にもよく練りこまれた物語だ。強く推した所以である。

◎松本寛大
 何をもって本格ミステリと呼ぶのかは、常に問い直されるべき問題だと思っています。
 本格ジャンルにおける既知の方法論を活かした小説と、ジャンルの枠を拡張するポテンシャルをもった小説。この両者が競い合うことに意義があるはずだとの思いで選考会にのぞみました。評論部門においても、既存の論を見通しよく整理することと新しい論の提示との両方が必要だろうと考えました。
 ひとつの作品の中でもこれは同様です。継承と発展の要素はいずれも含まれているはずで、そこに何かを見いだしたいのです。
 当然ですが選考会ではフェアネスという言葉をあらためて胸に刻み、個人的な好みからは可能な限り距離を置いたつもりですが、たいへん難しい仕事でした。
 推しきれなかった『魔眼の匣の殺人』『時を壊した彼女』『論理仕掛けの奇談』に対して申し訳なく思う気持ちはあるものの、最終的な結果には異存ありません。

▼候補作アンケート

39通(郵送27通、メール12通)
*31→33→42→36→35→37→30→30→27→30→27→39と、昨年より増加。

【アンケート結果】

◎小説部門(タイトル五十音順)
『Iの悲劇』 米澤穂信 文藝春秋
『或るエジプト十字架の謎』 柄刀一 光文社
『育休刑事』 似鳥 鶏 幻冬舎
『いけない』 道尾秀介 文藝春秋
『おじさんのトランク 幻燈小劇場』 芦辺 拓 光文社
『神とさざなみの密室』 市川憂人 新潮社
『奇説無惨絵条々』 谷津矢車 文藝春秋
『教室が、ひとりになるまで』 浅倉秋成 KADOKAWA
『京都東山 美術館と夜のアート』 高井 忍 創元推理文庫
『虚構推理 スリーピング・マーダー』 城平 京 講談社タイガ
『ケムリクサ』 たつき TVアニメ
『紅蓮館の殺人』 阿津川辰海 講談社タイガ
『絞首商會』 夕木春央 講談社
『昨夜は殺れたかも』 藤石波矢、辻堂ゆめ 講談社タイガ
『殺人犯 対 殺人鬼』 早坂 吝 光文社
『潮首岬に郭公の鳴く』 平石貴樹 光文社
『時空旅行者の砂時計』 方丈貴恵 東京創元社
『ジグソーパズル48』 乾くるみ 双葉社
『終末少女 AXIA girls』 古野まほろ 光文社
『早朝始発の殺風景』 青崎有吾 集英社
『そして誰も死ななかった』 白井智之 KADOKAWA
『そのナイフでは殺せない』 森川智喜 光文社
『沈黙の目撃者』 西澤保彦 徳間書店
『時を壊した彼女 7月7日は7度ある』 古野まほろ 講談社
『泥の銃弾』 吉上 亮 新潮文庫
『ノッキンオン・ロックドドア2』 青崎有吾 徳間書店
『法月綸太郎の消息』 法月綸太郎 講談社 (小説部門に)
『犯人選挙』 深水黎一郎 講談社
『ベーシックインカム』 井上真偽 集英社
『魔眼の匣の殺人』 今村昌弘 東京創元社
『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』 相沢沙呼 講談社
『むかしむかしあるところに、死体がありました』 青柳碧人 双葉社
『盲剣楼奇譚』 島田荘司 文藝春秋
『焼跡の二十面相』 辻 真先 光文社
『予言の島』 澤村伊智 KADOKAWA

◎評論・研究部門(タイトル50音順)
『江戸川乱歩新世紀 越境する探偵小説』 石川巧・落合教幸・金子明雄・川崎賢子(編) ひつじ書房
『遠藤周作と探偵小説 痕跡と追跡の文学』 金 承哲 教文館
「怪奇小説翻訳概況」 高橋一太 東京創元社「ミステリーズ!」vol.96
『快読 ホームズの「四つの署名」』 小野俊太 小鳥遊書房
「ガウス平面の殺人―虚構本格ミステリと後期クイーン的問題―」 琳 講談社「メフィスト」2019Vol.3
『御用!「半七捕物帳」』 浅子逸男 鼎書房
『シャーロック・ホームズ語辞典 ホームズにまつわる言葉をイラストと豆知識でパイプ片手に読み解く』 北原尚彦(文)、えのころ工房(絵) 誠文堂新光社
『書評稼業四十年』 北上次郎 本の雑誌社
『ずっとこの雑誌のことを書こうと思っていた』 鏡明 フリースタイル
「世界推理短編傑作集」全5巻(新版) 江戸川乱歩 編、戸川安宣 解説 東京創元社
「蘇部健一は何を隠しているのか?」 孔田多紀 講談社「メフィスト」2019Vol.3
「誰がめたにルビを振る」 坂嶋 竜 講談社「メフィスト」2019Vol.3
『探偵が推理を殺す 多元化する社会と本格ミステリ』 小田牧央 the lomg fish/Amazon kindle(電子書籍)
「短編ミステリの二百年 序章・第一章」 小森収 編 『短編ミステリの二百年1』創元推理文庫・収録
『短編ミステリの二百年1』 小森収 編 創元推理文庫
『ディストピア・フィクション論 悪夢の現実と対峙する想像力』 円堂都司昭 作品社
『東京は遠かった』 川本三郎  毎日新聞出版
『トラベル・ミステリー聖地巡礼』 佳多山大地 双葉文庫
『法月綸太郎の消息』 法月綸太郎 講談社(評論・研究部門に)
『ミステリーで読む戦後史』 古橋信孝 平凡社新書
『名探偵コナンと平成』 さやわか コア新書
『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』 長山靖生 河出書房新社
『論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集』 有栖川有栖 KADOKAWA

▼今後のスケジュール

05月12日(火) 消印有効にて投票〆切 
05月15日(金) 公開開票式
06月27日(土) 総会・贈呈式パーティ
         15:30~17:00 総会
         17:30~19:30 贈呈式
06月28日(日) 受賞記念座談会予定

3.新入会員の紹介

市川(いちかわ)憂人(ゆうと)(太田忠司/大崎梢=推薦)
自己紹介=1976年、神奈川県生まれ。東京大学卒。在学中は同大「新月お茶の会」所属。好きな本格作品(順不同。敬称略):『十角館の殺人』(綾辻行人)、『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)、『完全無欠の名探偵』(西澤保彦)、他多数。主な著書:『ジェリーフィッシュは凍らない』(創元推理文庫)、『神とさざなみの密室』(近作、新潮社)。よろしくお願い致します。(2019.11.27)
推薦理由=次々と新しい本格ミステリを生み出されている方です。これからの本格を担う才能です。(太田忠司)

越(こし)尾(お) 圭(けい)(太田忠司/千澤のり子=推薦)
自己紹介=1973年、愛知県生まれ。早稲田大学教育学部卒。第17回『このミステリーがすごい!』大賞の隠し玉『クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない』でデビュー。「意外性」という言葉が好きですので、意外性のある物語を創り続けていきたいです。どうぞよろしくお願いいたします。(2020.01.05)
推薦理由=新しい力で本格ミステリを引っ張っていただけると思います。(太田忠司)

(2020.03.04発行)

「本格ミステリ作家クラブ通信」第76号

1.第20期総会・第20回「本格ミステリ大賞」贈呈式までのスケジュール

 12月9日(月) 推薦作アンケート用紙を配布(*会員向け。本「会報」に添付)
 01月10日(金) 消印有効でアンケート〆切(FAX・メール同日有効)
 02月15日(土) 候補作選考委員会
          =青井夏海、芦辺拓、イクタケマコト、大森滋樹、松本寛大
*候補作家の承諾確認後、候補作決定「速報」をハガキとメールで通知(大賞運営委員=霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太)
 02月下旬     候補作の選考経過と本選「投票用紙」を全会員に配布。
 05月12日(火) 消印有効にて投票〆切
 05月15日(金) 公開開票式
 06月27 日(土) 総会・贈呈式パーティ
          15:30~17:00 総会
          17:30~19:30 贈呈式
 06月28日(日) 受賞記念トークショー&20周年記念サイン会(都内某所、詳細未定)

4.新入会員の紹介

秋(あき)梨(なし)惟(これ)喬(たか)(末國善己/千澤のり子=推薦)
自己紹介=代表作 ①中華アクション『もろこし銀侠伝』 ②ヲタク感満載『憧れの少年探偵団』 ③巧妙な与太話『矢澤潤二の微妙な陰謀』(2019.11)
推薦理由=「殺三狼」で第3回ミステリーズ!新人賞を受賞してデビューされた秋梨さんは、その後も良質な本格ミステリを書き継いでいますので、本会のの入会に相応しいと考え推薦します。(末國善己)

伊(い)吹(ぶき)亜(あ)門(もん)(太田忠司/法月綸太郎=推薦)
自己紹介=1991年名古屋市生まれ。2015年「監獄舎の殺人」で第12回ミステリーズ!新人賞を受賞しデビュー。京都在住。寝ても覚めても本格ミステリのことが頭から離れない男です。どうぞよろしくお願い申し上げます。(2019.11)
推薦理由=2019年本格ミステリ大賞受賞者です。以上。(太田忠司)

岡(おか)崎(ざき)琢(たく)磨(ま)(関根 亨/青柳碧人=推薦)
自己紹介=福岡県生まれ。京都大学法学部卒。2012年第10回「このミステリーがすごい!」大賞隠し玉に選定された『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』でデビュー。『金田一少年の事件簿』で本格ミステリを学んだ世代です。(2019.6)
推薦理由=岡崎さんは『夏を取り戻す』で本年2019年の本格ミステリ大賞候補になられました。今後も本格ミステリの世界を大いに広げていただけることでしょう。(関根 亨)

小(お)野(の)純(じゆん)一(いち)(芦辺 拓/北村一男=推薦)
自己紹介=1981年生まれ。2004年3月に日本獣医生命科学大学を卒業。同年11月に盛林堂書房を継ぐ。2012年12月より古本屋業の傍ら、ミステリ・SF系の自費出版を開始。近年では戦前探偵小説作家・大阪圭吉の単行本未収録作品集を刊行。現在も大阪圭吉の遺族とともに、資料の整理や未発表作品の探索をしています。(2019.11)
推薦理由=珍しく貴重なミステリ図書の取り扱いに定評がある古書店のご主人で、併せてリトル・プレスとしての図書刊行も相次ぎ、推理文芸の貢献多大と見て推薦いたします。(芦辺 拓)

金(こん)春(ぱる)智(とも)子(こ)(辻 真先/太田忠司=推薦)
自己紹介=奈良市生まれ。東京都杉並区在住。上智大学外国語学部卒業。在学中に辻真先先生に師事し、アニメの脚本を書き始める。「うる星やつら」「それいけ!アンパンマン」「うたの☆プリンスさまっ♪」など作品多数。小説は過去に『ロンドン塔でミステリー』等。アガサ・クリスティのように少しやわらかめの作品が好きです。よろしくお願いします。(2019.7)
推薦理由=アニメ脚本のベテランですが、並行して書かれていた『○○でミステリー』シリーズでのミステリへの傾斜は群を抜いており、ぜひ当クラブで活躍してほしいと考えました。(辻 真先)

坂(さか)嶋(しま) 竜(りゆう)(法月綸太郎/円堂都司昭=推薦)
自己紹介=1983年、岩手県釜石市生まれ。筑波大学ミステリー研究会に8年所属するも、「データベース作成のためのトリック分類」という卒論で無事卒業。「誰がめたにルビを振る」でメフィスト評論賞法月賞を受賞し、商業誌デビュー。これまで僕は『凶鳥の黒影』を筆頭に、暗色天幕の舞台、真壁誠一の遺作、『永遠の輪廻』、狐と祭具の物語などに胸躍らせてきました。自分なりの騙りで、この本格というジャンルに少しでも恩返しができるよう、今後も精進していきたいと思います。(2019.11)
推薦理由=「誰がめたにルビを振る」は着眼点の面白さだけでなく、比較作家論としても読みごたえのある好論文でした。今後いっそうの活躍が期待されます。(法月綸太郎)

方(ほう)丈(じよう)貴(き)恵(え)(太田忠司/法月綸太郎=推薦)
自己紹介=1984年、兵庫県生まれ。京都大学卒。『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞受賞。趣味は映画鑑賞。どうぞよろしくお願いいたします。(2019.11)
推薦理由=特殊設定ミステリの旗手として今後の活躍を期待できる方です。(太田忠司)

木(もく)犀(せい)あこ(織守きょうや/円堂都司昭=推薦)
自己紹介=1983年徳島県生まれ。奈良女子大学文学部卒。大学卒業後、会社勤めのかたわら執筆活動を開始し、第24回日本ホラー小説大賞優秀賞を受賞しデビュー。主な著作に「奇奇奇譚編集部」シリーズ、『美食亭グストーの特別料理』など。好きなミステリ作家はクリスチアナ・ブランドなど。(2019.6)
推薦理由=ミステリ色のあるホラーを書かれる木犀さんは、現像文学への造詣も深く、新しいミステリ&ホラーの書き手として期待される作家です。(織守きょうや)

琳(りん)(法月綸太郎/円堂都司昭=推薦)
自己紹介=「ガウス平面の殺人 ─虚構本格ミステリと後期クイーン的問題─」にて第1回メフィスト評論賞受賞。「『都市伝説パズル』と後期クイーン的問題」にて第1回日本推理作家協会70周年書評・評論コンクール受賞。日本推理作家協会会員。(2019.11)
推薦理由=「ガウス平面の殺人」は現代本格の大きなテーマに正面から取り組んだ骨太の評論です。今後いっそうの活躍が期待されます。(法月綸太郎)

(2019.12.09発行)

「本格ミステリ作家クラブ通信」第75号

1.第19回本格ミステリ作家クラブ総会の報告

(1)議長団の選出
 会則26条に基づき、執行会議のメンバーから以下の議長団を選任した。
 議長・芦辺拓 副議長・太田忠司 書記・千澤のり子

 議長団は拍手多数をもって承認された。また議事進行において特に異議のない場合は、拍手で承認することを確認した。

(2)東川篤哉会長の挨拶
 皆さまが集まって意見を交換する場は、ほとんどありませんので、忌憚のないご意見、ご要望、あるいは不満などありましたら、お聞かせいただきたいと思います。

(3)定足数の確認、入退会者の承認
 出席者40名、委任76名で、合計116名となり、正会員数の192名の半数を超えているので定足数を満たし、会則27条により総会が成立した。

 続いて執行会議が承認した新入会員について議長から簡単な紹介をした後、

 阿藤玲(佳多山大地/東川篤哉=推薦)
 イクタケマコト(天祢 涼/千澤のり子=推薦)
 稲羽白菟(千澤のり子/千街晶之=推薦)
 今村昌弘(大崎 梢/太田忠司=推薦)
 七尾与史(深水黎一郎/関根 亨=推薦)
 似鳥鶏(太田忠司/深水黎一郎=推薦)
 矢樹純(太田忠司/深水黎一郎=推薦)
 陸秋槎(戸川安宣/法月綸太郎=推薦)
 若林踏(廣澤吉泰/福井健太=推薦)
 岡崎琢磨(関根 亨/青柳碧人=推薦)
 木犀あこ(円堂都司昭/織守きょうや=推薦)
 以上10名の入会が全会一致で承認された。
 また、会員の遊井かなめの退会が報告された。

(4)アンソロジー刊行方式の変更
 アンソロジー担当の円堂都司昭より年間ベストアンソロジーが従来のノベルス版から文庫版で刊行される方式変更の説明があった。これまでの未文庫化作品4冊は内容を絞り『ベスト本格ミステリ 短編傑作選』と名前を変えて今年度中に一気に刊行する。2019年度以降は『本格王』というタイトルになり、文庫で刊行される。今後ノベルスを文庫にした版の刊行がなくなるので、会の収入が減ることも説明された。
 会員の柄刀一からスリム化の際に厳選した人物に関する質問について、記録に基づき選考時点で評価が高かったものを選んでいると回答した。

(5)第18期活動報告
 太田忠司事務局長より、第18期の活動内容が報告された。同内容は会報を通じて会員に報告済みなので省略する。
 アンソロジーの刊行方式変更に伴い収入源が大幅に減るため、改善策として新入会員、賛助会員の勧誘してほしいと呼びかけがあった。

(6)第18期会計報告
 会計担当の麻耶雄嵩より第18期会計報告が行われた後、監査の獅子宮俊彦による監査報告が行われ、問題がないことが確認された。別紙「第18期決算」および「収支決算書」を参照。総会配布の「監査報告書」のプリントは省略する。
『ベスト本格ミステリ』3年分の文庫化があったので例年より収入が多いと説明があった。

(7)役員改選について
 選挙管理委員の青崎有吾、明利英司から役員改選に関する報告があった。
 第19期、20期役員は以下のとおりである。

 会長 東川篤哉(執行会議兼任)
 事務局長 太田忠司(執行会議兼任)
 監事(会計監査) 竹本健治
 執行会議 芦辺拓、大崎梢、北村一男、霧舎巧、黒田研二、関根亨、千澤のり子、鳥飼否宇、法月綸太郎、深水黎一郎、福井健太、麻耶雄嵩

(8)本格ミステリ大賞運営基準
 議長の芦辺拓から本格ミステリ大賞候補作の選考基準について「最初から日本語で書かれた作品のみを選考対象とする」ことを会則に付け加えると説明があった。

(9)第19期(19年)活動計画・予算案
 太田忠司事務局長より第19期の活動計画、会計担当の麻耶雄嵩より予算案についての説明があり、承認された。収入源は会員、賛助会員の増加で補うと議長の芦辺拓より補足された。

(10)20周年記念について
 円堂都司昭が南雲堂で本格ミステリ大賞の小説部門の歴代受賞作に関する評論集アンソロジー刊行、千澤のり子が株式会社E-Pin企画のイベント開催の企画、太田忠司が名古屋開催イベントについてそれぞれの途中経過を報告した。
 20周年のプレ企画として2019年11月大阪の紀伊國屋書店で開催予定のイベントについて太田忠司から説明があった。

(11)本格ミステリ大賞推薦作アンケート変更
 芦辺拓から本格ミステリ大賞小説部門推薦作アンケートについて、「大幅な加筆修正がなされた長編、電子出版等」と条項に「電子出版等」を追加すると報告があった。

(12)本格ミステリ大賞受賞記念トークショーについて
 イベント担当の北村一男から授賞式翌日の記念トークショーと合同サイン会について説明が行われた。

(13)今後の運営と質疑応答
 本格ミステリ大賞の投票数向上と会員の負担軽減に関する質疑応答が行われた。

 獅子宮敏彦「本格ミステリ大賞の投票数を上げるために、候補作を3冊以上読んでいたらポイント加算で有効投票とするのはいかがだろうか」
 東川篤哉「歴史的に変えないほうがいい」
 円堂都司昭「賞の稀少性のためにもこのままのほうがいい」
 柄刀一「以前、投票期間を延ばすのは難しいという結論になったが、ネット上で候補作を読めるようにすることはできないのか」
 芦辺拓「難しいと思う」
 イクタケマコト「イラストレーターなので、文章を書くことが難しい。選評なしはできないのか」
 東川篤哉「選評が虚偽の投票の抑止力になっているので、最低字数の200字を目指して頑張ってほしい」

 以上、出席者の拍手をもって総会は終了した。

2.第18回「本格ミステリ大賞」贈呈式の報告

 第19回定期総会の後、日本出版クラブホール3階フロアを貸し切り、第19回「本格ミステリ大賞」贈呈式を開催した。贈呈式は会員の杉江松恋氏の司会で進行された。当日は【約120名】の方々に出席をいただき、盛況のうちに幕を開けた。

 太田忠司事務局長から「本格ミステリ大賞」決定までの経過が報告された後、東川篤哉会長から『刀と傘 明治京洛推理帖』で小説部門を受賞された伊吹亜門氏、『乱歩謎解きクロニクル』で評論・研究部門を受賞された中相作氏に、賞状と正賞のトロフィーが授与された。

・伊吹亜門氏の受賞コメント
 中学生の時分から本格ミステリを愛してきた者にとっては、このうえない誉れと感じております。お礼はこれからの作品をもって代えさせていただくことができますよう、今後も精進してまいります。

 ・中相作氏のコメント
 こんなことがあるとは思ってもいませんでした。年齢を考慮して辞退しようかとも考えましたが、ありがたく頂戴いたします。大変嬉しく思っております。

 受賞の言葉に続き、日本推理作家協会の京極夏彦会長よりお言葉をいただいた。

 同会場では引き続き祝賀パーティーが行われた。北村薫氏の乾杯で始まったパーティーは大盛況となった。

(2019.12.06発行)

「本格ミステリ作家クラブ通信」第74号

1.第19回「本格ミステリ大賞」決定

2019年5月10日、光文社の会議室で、第19回本格ミステリ大賞の公開開票式が行われた。投票総数は49通。会場には、会員、賛助会員が多数出席、例年通り、大盛況のなかでの開催となった。開票式は、厳重に保管されていた投票用紙を北村薫委員が開封、文字数をチェックした後、東川篤哉会長が票を読み上げる方法で進められた。
【小説部門】は、『刀と傘』『夏を取り戻す』『パズラクション』に票が集まる幕開けとなった。中盤で『アリバイ崩し承ります』『碆霊の如き祀るもの』にも票が入ったが、終盤で『刀と傘』『夏を取り戻す』の一騎打ちになり、一票を読み上げるたびに緊張感が高まった。
【評論・研究部門】は、均等に票が入り『娯楽としての炎上』が一歩抜けたところで『乱歩謎解きクロニクル』に票が一気に集まり、追い抜いた結果となった。
 開票作業の終了後、執行会議のメンバーが最終確認を行った結果、以下の得票数が確定した。
(獲得票順、同票の場合はタイトル五十音順)

【小説部門】(有効投票数49票)
『刀と傘 明治京洛推理帖』 伊吹亜門 (東京創元社) 16票
『夏を取り戻す』 岡崎琢磨( 東京創元社) 11票
『パズラクション』 霞 流一 (原書房) 11票
『アリバイ崩し承ります』 大山誠一郎 (実業之日本社) 6票
『碆霊の如き祀るもの』 三津田信三 (原書房) 5票

【評論・研究部門】(有効投票数22票)
『乱歩謎解きクロニクル』 中 相作 (言視舎) 9票
『娯楽としての炎上』 藤田直哉 (南雲堂) 7票
『刑事コロンボ読本』 町田暁雄 (洋泉社) 3票
『21世紀本格ミステリ映像大全』 千街晶之・編著 (原書房) 3票
『本格ミステリ漫画ゼミ』 福井健太 (東京創元社) 0票

☆第19回「本格ミステリ大賞」受賞作と「受賞の言葉」

【小説部門】
『刀と傘 明治京洛推理帖』伊吹亜門(東京創元社)
 この度は栄誉ある賞を頂き、誠にありがとうございます。
 中学生の時に読んだ横溝正史で本格ミステリの世界に迷い込んで以降、今日に至るまで行きつ戻りつ赤い夢の世界に淫してきました。そんな自分の作品が、今回の受賞によって本格ミステリだと認めて頂けましたことはこの上ない誉れと感じております。
 これからも書いていきたい物語は山ほどありますが、そのいずれにも「本格ミステリ」の看板を掲げることが出来るよう、今後も精進して参ります。
 この度は誠にありがとうございました。

【評論・研究部門】
『乱歩謎解きクロニクル』中 相作(言視舎)
 どうもありがとうございます。江戸川乱歩はデビュー当初から変格派、不健全派の名をほしいままにしていて、海外の本格探偵小説に開眼したあとも本格作品は書けず、読者からは変格派と見做されつづけた人でした。そんな事情も手伝ったのか、この賞にノミネートしていただいたときにはとても意外でびっくりしたものでしたが、私自身がまたずいぶんな変格派ですから、マイナスかけるマイナスでプラスの本格に転じたということでしょうか。芦辺拓先生をはじめご推挽をいただいたみなさんに心からお礼を申しあげます。天国の乱歩も喜んでくれているだろうと思います、と素直にはいえないような気もするのがちょっとつらいところですが。

(2019.06.03発行)

「本格ミステリ作家クラブ通信」第73号

1.19回「本格ミステリ大賞」候補作決定

【小説部門】候補作(タイトル50音順)
『アリバイ崩し承ります』 大山誠一郎 (実業之日本社)
『刀と傘』 伊吹亜門 (東京創元社)
『夏を取り戻す』 岡崎琢磨( 東京創元社)
『碆霊(はえだま)の如き祀るもの』 三津田信三 (原書房)
『パズラクション』 霞流一 (原書房)

【評論・研究部門】候補作(タイトル50音順)
『刑事コロンボ読本』 町田暁雄 (洋泉社)
『娯楽としての炎上』 藤田直哉 (南雲堂)
『21世紀本格ミステリ映像大全』 千街晶之・編著 (原書房)
『本格ミステリ漫画ゼミ』 福井健太 (東京創元社)
『乱歩謎解きクロニクル』 中相作 (言視舎)

第19回「本格ミステリ大賞」候補作決定のための予選会は2月16日に、大賞運営委員・霧舎巧、鳥飼否宇、遊井かなめの立ち会いのもと、予選委員・青井夏海、芦辺 拓、乾くるみ、大森滋樹、松浦正人によって行われた。

▼選考経過

【小説部門】
 今回は五名の予選委員の推薦作が分かれ、挙げられた作品は十八作に及んだ。まず予選委員一名のみが推した十一作について、推薦者から推薦理由が述べられ、候補作にふさわしいかどうか議論された。この中で、斬新な試みが評価できるという声があがった『探偵AIのリアル・ディープラーニング』と、青春小説として秀逸という意見のあった『ネクスト・ギグ』は次の検討に残すことになった。この段階で、『沈黙のパレード』、『深夜の博覧会』、『お前の彼女は二階で茹で死に』、『叙述トリック短編集』、『ドッペルゲンガーの銃』、『インド倶楽部の謎』、『友達以上探偵未満』、『帝都探偵大戦』、『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』の九作がふるい落とされた。
 続いて、予選委員二名が推した七作に前述の二作を加えた計九作について、それぞれ長所と短所が検討された。『アリバイ崩し承ります』は端正な本格短編集で完成度が高く、前回の受賞作(『密室蒐集家』)よりも優れているという意見が多かった。『刀と傘』については動機の一部に納得がいかないという声もあったが、時代小説と本格ミステリの融合のさせ方が巧みと推す声が高かった。まずはこの二作が候補作に決定した。
『星詠師の記憶』については、発想が新鮮で推理のこねくり回し方がおもしろいというプラス評価があがる一方、論理を展開する土台がしっかりしていないというマイナス評価もあがった。『パズラクション』については、偽装工作のヴァリエーションが画一的ではないかという意見もあったものの、ロジックへのこだわりは高く評価された。『碆霊の如き祀るもの』については各種年末ランキングでも上位に入り、会員アンケートでも得票数が多かったので当然残すべき作品という見解は一致したが、過去の受賞作(『水魑の如き沈むもの』)と同一探偵の同シリーズを候補作にしてよいかどうかで意見が割れた。『夏を取り戻す』はコアな本格ミステリマニアではない読者も惹きつけられる青春ミステリとして総合点が高いと評価された。『火曜新聞クラブ』については、本格ミステリとしてやるべきことをきっちりやっていると評価されながらも、クリスティの時代ならまだしも今なぜこの作品なのかという指摘があった。
 予選委員全員の意見の一致は見ず、複数の多数決を重ねた結果、『パズラクション』、『碆霊の如き祀るもの』、『夏を取り戻す』の三作が候補作に残った。(鳥飼否宇)

【評論・研究部門】
 予選委員が推薦し、予選会で検討されたのは、次の十点。芦辺拓『少年少女のためのミステリー超入門』、押野武志 ほか『日本探偵小説を知る』、島田荘司『本格からHONKAKUへ』、千街晶之『21世紀本格ミステリ映像大全』、中相作『乱歩謎解きクロニクル』、福井健太『本格ミステリ漫画ゼミ』、藤田直哉『娯楽としての炎上』、マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』、町田暁雄編の『刑事コロンボ読本』、そして『奇商クラブ』での小森収の解説――である。
 まず、大賞の内規により『探偵小説の黄金時代』が、そして予選委員からの強い推薦を得られなかった『日本探偵小説を知る』が候補から外れることになった。
 次いで、予選委員の四人が推薦した『21世紀本格ミステリ映像大全』と『娯楽としての炎上』を候補とすることが決定。前者はお笑いまでも対象とするエンサイクロペディア的な内容が評価された。後者には結論ありきだという厳しい意見もあったが、「これだけの問題意識をもって書かれた評論書は過去なかった」という称賛の声があがった。
 続いて、残り六点の検討へ。『少年少女のための~』は初心者向けの啓蒙書としての誠実さが評価されたが、突き抜けて高い支持は得られなかった。会員によるアンケートでは最も票が集まった『本格からHONKAKUへ』は、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の選評に歴史的な意義があるという声もある一方で、現代本格への認識に見落としがあるという指摘もあった。
 予断があると疑問視する声もあった『乱歩謎解きクロニクル』だが、切り口の鋭さが注目された。『漫画ゼミ』は網羅性の低さも指摘されたが、『21世紀~』とセットで評価したいという意見もあがった。
 史料性も高く編者の意図も明確な『刑事コロンボ読本』だが、一つの映像作品に特化した本を本格ミステリ大賞の候補とすることへの懸念の声があがった。候補とすることの難しさは、『奇商クラブ』の解説についても問われることになった。
 議論を経たのち、まずは『乱歩謎解きクロニクル』に当確が灯り、『本格からHONKAKUへ』が候補から外れた。残り四作で二作を競う展開になったが、『刑事コロンボ読本』と『漫画ゼミ』を委員三名が支持したことが決め手となり、残りニ枠はそれらを候補作とすることに意見の一致を見た。(遊井かなめ)

▼選評

◎青井夏海
『アリバイ崩し承ります』『刀と傘 明治京洛推理帖』はぜひ残ってほしい二作でした。ほかに『星詠師の記憶』『お前の彼女は二階で茹で死に』を推しましたが、魅力を語りきれなかったことを反省しています。『夏を取り戻す』は一点ピンとこない部分があり、読み応えを感じながらも全面的に推せない気がしていましたが、他の委員のご助言ですっきりと氷解し賛同に至りました。
 評論・研究部門は、本格への関心の間口を広げられる作品という観点で『娯楽としての炎上』『21世紀本格ミステリ映像大全』『本格ミステリ漫画ゼミ』『少年少女のためのミステリー超入門』を推しました。『刑事コロンボ読本』については、映像関連が二作並ぶのはどうなのだろうという疑問から、『映像大全』を推すなら諦めなければと勝手に決め込んでいましたが、それぞれまったく別の意義があるので両方でもよいのではというご意見をもっともだと思い、迷わず賛同しました。

◎芦辺 拓
 小説部門と評論部門の両方で、自著がいかに候補にふさわしくないか縷々説き聞かされるという体験は、なかなか人間修業となるものだった――ということはともかく、会員アンケートを道しるべとして出会った多くの作品を絞りこんでゆく作業は、はなはだ困難なものでした。個々の作品の位置づけを考え、かつまた投票者にとって偏りないものにしようとすればするほど、かえっていろんな矛盾が生じるのです。そうしたせめぎあいの結果、『深夜の博覧会』『火曜新聞クラブ』などを残しえなかったのは悔いの残るところで、評論部門に関しても、あまりにも知識や情報が更新されていないものを外し得た結果、小説以外のガイドブックが複数入ることになった結果は、会員諸氏に違和感を生じるかもしれず、つくづくと選考作業の困難さを感じさせられたことでした。ただ『乱歩謎解きクロニクル』の存在を予選委員推薦作という形で伝えることができたことだけは安堵しています。

◎乾くるみ
 小説部門は何を推すか悩んだ。予選会に推薦する五作がなかなか決まらない。泣く泣く落とした作品を他の委員が上げてきて、そうだよなやっぱり良い作品だよなと、そこでまた悩むといった具合。それでも結果には満足している。自分が推薦した五作のうち三作が残ったし、残り二作も途中で賛成に回った作品である。候補に残らなかった作品については、受賞の機会を奪ったことになるが、その責任を引き受ける覚悟はしている。特に『星詠師の記憶』に関しては、積極的反対に回ったことをここで告白しておく。同作が候補から洩れたことに不満を持つ人に対しては、必要ならば別途説明をする用意がある。
 評論・研究部門では、他の委員が推薦した作品に良いものがあり、推薦作選びの段階で未読だった自分の目の行き届かなさを反省した。こちらの部門も自分が推薦した作品や、最終的に賛成に回った作品が揃って候補に残ったので、結果には満足している。

◎大森滋樹
『娯楽としての炎上』は、結論に説得されない部分も少なくないが、久しぶりにアクチュアリティのある論考だ。「過去こうでした」「現在こうです」の他に、評論には「未来はこうなります」を期待したい。
 小説では『夏を取り戻す』を推した。「空気」を読み、推理に消極的な忖度探偵が主に学園ミステリで登場してから、推理行為は変質してきた。共同体の秩序や利害関係に探偵が敏感になってきたのだ。その結果、犯罪行為の推理は、事件関係者間のコミュニケーションツールになってきた。推理行為が情報のプラットフォームとなり、探偵やワトソン役は当事者同士の利害を調整するのである。『夏を取り戻す』ではまさに、謎を解くことが、子どもたち=犯人とのコミュニケーションの回路を開いていく。その過程の果てに、失われた「夏」を取り戻すという目的が次第に明らかになる。「夏」とはいったい何か。みなさん、刮目してご確認あれ!

◎松浦正人
 難しい選考でした。それというのも、推薦作の段階で小説部門の候補が多数にのぼったためです。少なくとも予選委員のあいだでは本命が不在であったといえますが、おかげで腰のすわった議論になかなか進めず、もどかしい思いを味わいました。例をあげるなら、他の委員のおかげで出逢えた『火曜新聞クラブ』のこと。論理重視の謎解きものを現実世界を舞台に書いたという点で稀少な秀作であったのに、踏みこんだ意見交換をもちかけられず後悔しています。コミュニケーションの能力が必要だと痛感させられました。
 これにくらべると、評論・研究部門のやりとりは活発でした。映像関係の二冊はある意味で対照的ですから、ともに本選に残って幸いだったと思います。それから、もう一点。チェスタトンの文庫解説には、去年の巽昌章氏のものとはまったく違った意味で感銘をうけました。賛同は得られませんでしたが、ひろく読まれることを本当に祈っています。

▼今後のスケジュール

05月04日(土) 消印有効にて投票〆切 
05月10日(金) 公開開票式
06月22日(土) 総会・贈呈式パーティ
         15:30~17:00 総会
         17:30~19:30 贈呈式
06月23日(日) 受賞記念座談会予定

▼候補作アンケート

27通(郵送20通、メール7通)
*31→33→42→36→35→37→30→30→27→30→27と、昨年より減少。

【アンケート結果】

◎小説部門(タイトル五十音順)
『アリバイ崩し承ります』 大山誠一郎 (実業之日本社)
『インド倶楽部』 有栖川有栖 (講談社ノベルス)
『お前の彼女は二階で茹で死に』 白井智之 (実業之日本社)
『刀と傘 明治京洛推理帖』 伊吹亜門 (東京創元社)
『火曜新聞クラブ 泉杜毬見台の探偵』 階 知彦 (ハヤカワ文庫JA)
『虚像のアラベスク』 深水黎一郎 (KADOKAWA)
『グラスバードは還らない』 市川憂人 (東京創元社)
『恋牡丹』 戸田義長 (創元推理文庫)
『合邦の密室』 稲羽白菟 (原書房)
『錆びた滑車』 若竹七海 (文春文庫)
『新・二都物語』 芦辺 拓 (文藝春秋)
『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』 辻 真先 (東京創元社)
『叙述トリック短編集』 似鳥 鶏 (講談社)
『星詠師の記憶』 阿津川辰海 (光文社)
『探偵AIのリアル・ディープラーニング』 早坂 吝 (新潮文庫nex)
『沈黙のパレード』 東野圭吾 (文藝春秋)
『友達以上探偵未満』 麻耶雄嵩 (KADOKAWA)
『ドッペルゲンガーの銃』 倉知 淳 (文藝春秋)
『夏を取り戻す』 岡崎琢磨 (東京創元社)
『ネクスト・ギグ』 鵜林伸也 (東京創元社)
『碆霊の如き祀るもの』 三津田信三 (原書房)
『パズラクション』 霞 流一 (原書房)
『晴れ時々、食品サンプル ほしがり探偵ユリオ』 青柳碧人 (創元推理文庫)
『本と鍵の季節』 米澤穂信 (集英社)
『ミダスの河 名探偵・浅見光彦VS.天才・天地龍之介』 柄刀 一 (祥伝社)
『骸の鍵』 麻見和史 (双葉社)
『メーラーデーモンの戦慄』 早坂 吝 (講談社ノベルス)
『黙過』 下村敦史 (徳間書店)
『誘拐の免罪符 浜中刑事の奔走』 小島正樹 (南雲堂)
『私の頭が正常であったなら』 山白朝子 (KADOKAWA 幽BOOKS)

◎評論・研究部門(タイトル50音順)
『奇譚倶楽部』(新訳版、G・K・チェスタトン)の解説 小森 収 (創元推理文庫)
『娯楽としての炎上』 藤田直哉 (南雲堂)
『刑事コロンボ読本』 町田暁雄・編 (洋泉社)
『少年少女のためのミステリー超入門』 芦辺 拓 (岩崎書店)
『推理小説批評大全 総解説』 松井和翠 (同人誌)
『探偵小説の黄金時代』 マーティン・エドワーズ、森英俊、白須清美・訳 (国書刊行会)
『21世紀本格ミステリ映像大全』 千街晶之・編著 (原書房)
『日本推理作家協会70周年 書評・評論コンクール応募集成』 野地嘉文
『日本探偵小説を知る150年の愉楽』 押野武志、谷口 基、横濱雄二、諸岡卓真・編著 (北海道大学出版会)
『ホームズと推理小説の時代』 中尾真理 (ちくま学芸文庫)
『本格からHONKAKUへ』 島田荘司 (南雲堂)
『本格ミステリ漫画ゼミ』 福井健太 (東京創元社)
『マニエリスム談義 驚異の大陸をめぐる超英米文学史』 高山 宏、巽 孝之 (彩流社)
「CRITICA 第13号」(探偵小説研究会・編著)所収の「明治を超越する『化物』たち」 池堂孝平 (同人誌)

3.新入会員の紹介

矢(や)樹(ぎ) 純(じゆん)(太田忠司/深水黎一郎=推薦)
自己紹介=1976年、青森市生まれ。第10回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉として『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』(宝島社)でデビュー。最新作は2017年発売の『がらくた少女と人喰い煙突』(河出書房新社)。漫画原作者としても活動しており、代表作にテレビ朝日でドラマ化された『あいの結婚相談所』(小学館)、週刊ヤングマガジン連載の『バカレイドッグス』(講談社)がある。(2018.12.7)
推薦理由=御本人いわく「このミス大賞作品より本ミス大賞作品を好んで読んでまいりました」とのこと。これから本格ミステリの作品を書いてくださると期待します。(太田忠司)

似鳥(にたどり) 鶏(けい)(太田忠司/深水黎一郎=推薦)
自己紹介=1981年、千葉県生まれ。おっさんと美少女の二人組。原稿はすべて美少女の方が書き、インタビューやイベント出演などはおっさんが担当している。印税等はおっさんが受け取り、適当に天引きしてから美少女の方に渡している。非常によく喋るため邪魔極まりないが、トマトが苦手なので、トマトを口に押し込むと嘔吐して黙る。その後、死ぬ。(2019.1.8)
推薦理由=デビュー以来、旺盛な執筆で次々と良作を生み出しおり、本格ミステリ大賞候補にも選ばれた逸材です。(太田忠司)

陸(りく) 秋(しゆう)槎(さ)
自己紹介=中国北京出身、復旦大学古籍研究所修士卒業。2o14年来日。著書に長編『元年春之祭』(早川書房2018)、短編「1797年のザナドゥ」などがある。好きな本格作品は『厭魅の如き憑くもの 』『メルカトルかく語りき』。「新本格」の影響を受けてミステリを執筆しはじめました。(2019.2.22)
推薦理由=2018年、『元年春之祭』(中国・新星出版社 2016年)の邦訳(ハヤカワ・ミステリ)が昨年の各ベストテンにおいて高い評価を受け、一躍華文本格の寵児となった陸 秋槎さんは、現在、金沢を拠点に執筆活動をされておられます。大学生の時、麻耶雄嵩さんと三津田信三さんの作品を読んで、日本の新本格の魅力に目覚めたという陸さんは、〈ミステリマガジン〉での法月綸太郎さんとの対談で、本格ミステリへの熱い思いを吐露しておられます。今後の活躍が大いに期待される陸さんを、当クラブに推薦させていただきます。(戸川安宣)

(2019.02.28発行)

「本格ミステリ作家クラブ通信」第72号

1.第19期総会・第19回「本格ミステリ大賞」贈呈式までのスケジュール

 12月10日(月) 推薦作アンケート用紙を配布(*本「会報」に添付)
 01月11日(金) 消印有効でアンケート〆切(FAX・メール同日有効)
 02月16日(土) 候補作選考委員会=青井夏海、芦辺拓、乾くるみ、大森滋樹、松浦正人
*候補作家の承諾確認後、候補作決定「速報」をハガキとメールで通知(大賞運営委員=霧舎巧、鳥飼否宇、遊井かなめ)
 02月下旬     候補作の選考経過と本選「投票用紙」を全会員に配布
 05月04日(土) 消印有効にて投票〆切
 05月10日(金) 公開開票式
 06月22日(土) 総会・贈呈式パーティ
          15:30~17:00 総会
          17:30~19:30 贈呈式
 06月23日(日) 受賞記念座談会予定(都内某所、詳細未定)

(2018.12.10発行)

「本格ミステリ作家クラブ通信」第71号

1.第18回本格ミステリ作家クラブ総会の報告

(1)議長団の選出
 会則26条に基づき、執行会議のメンバーから以下の議長団を選任した。
 議長・芦辺 拓 副議長・深水黎一郎 書記・千澤のり子

 議長団は拍手多数をもって承認された。また議事進行において特に異議のない場合は、拍手で承認することを確認した。

(2)東川篤哉会長の挨拶
 本日は雨の降る中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。今年も本格ミステリ大賞が決まり、アンソロジーも刊行され、この時を迎えることができました。会員の皆さま、賛助会員の皆さまのおかげだと考えまして、御礼申し上げます。会員と執行部とが顔合わせる機会もそうそうありませんので、忌憚のない意見をお聞かせいただき、今後の活動に反映したいと思っております。よろしくお願いします。
 

(3)定足数の確認、入退会者の承認
 出席者28名、委任76名で、合計104名となり、正会員数の182名の半数を超えているので定足数を満たし、会則27条により総会が成立した。

 続いて執行会議が承認した新入会員について議長から簡単な紹介がなされた後、

 誉田龍一(芦辺 拓/遊井かなめ=推薦)
 芦沢 央(深水黎一郎/円堂都司昭=推薦)
 秋好亮平(千街晶之/円堂都司昭=推薦)
 以上3名の入会が全会一致で承認された。

 また、賛助会員として株式会社ブックリスタが加わった。

(4)第17期活動報告
 太田忠司事務局長より、第17期の活動内容が報告された。同内容は会報を通じて会員に報告済みなので省略する。

(5)第17期会計報告
 会計担当の麻耶雄嵩より第17期会計報告が行われた後、監査の獅子宮俊彦による監査報告が行われ、問題がないことが確認された。別紙「第17期決算」および「収支決算書」を参照。総会配布の「監査報告書」のプリントは省略する。

(6)第18期(18年)活動計画・予算案
 本格ミステリ大賞選考の見直しが行われ、変更なしとなった。
 太田忠司事務局長より第18期の活動計画、麻耶雄嵩より予算案についての説明がなされ、承認された。

(7)20周年記念について
 円堂都司昭から南雲堂で本格ミステリ大賞の評論・研究部門の受賞者による評論集アンソロジー刊行の企画案、千澤のり子から株式会社E-Pin企画のイベント開催の企画案の報告があり、いずれも協賛の形式をとり、進行状況を随時報告すると告知があった。

(8)今後の運営について
 議長から新会員募集の呼びかけのお願いと、イベント担当の北村一男から授賞式翌日の記念トークショーと合同サイン会について説明が行われ、終了した。

2.第18回「本格ミステリ大賞」贈呈式の報告

 第18回定期総会の後、日本出版クラブ会館「鳳凰の間」で、第18回「本格ミステリ大賞」贈呈式を開催した。贈呈式は会員の杉江松恋氏の司会で進行された。当日は約115名の方々に出席をいただき、盛況のうちに幕を開けた。

 太田忠司事務局長から「本格ミステリ大賞」決定までの経過が報告された後、東川篤哉会長から『屍人荘の殺人』で小説部門を受賞された今村昌弘氏、『本格ミステリ戯作三昧―贋作と評論で描く本格ミステリ十五の魅力』で評論・研究部門を受賞された飯城勇三氏に、賞状と正賞のトロフィーが授与された。

・今村昌弘氏の受賞コメント
 いろいろな方がSNSを通じて宣伝してくださり、話題が広まって、波及して今の結果にいたると強く思っています。これまでミステリに深く付き合ってきた人間ではありませんので、今まさに、ミステリのワクワク感を感じながら本を書いています。ミステリ作家としてはもちろん、一読者としての興奮を忘れないようにしながら、本格ミステリの発展に力添えしていけたらと思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

・飯城勇三氏のコメント
 タイトルに「本格ミステリ」が入っている本で受賞できて、大変喜んでおります。本格ミステリは「自由な読み方ができる」と昨年のスピーチで話した言葉が自分に跳ね返ってきました。作家が書いていない作品を勝手に書いたり、その作品に感想を書いたり、読者の立場から好きに書かせてもらいました。贋作は文章が似ているだけではなく、プロット・トリック・キャラクターすべてを似せないといけないので苦労しましたが、辛さや難しさを楽しむことができました。それを受け止めてくださった皆さまに感謝しています。ありがとうございました。

 受賞の言葉に続き、日本推理作家協会の北村薫理事よりお言葉をいただいた。

 同会場では引き続き祝賀パーティーが行われた。戸川安宣氏の乾杯で始まったパーティーは大盛況となった。

4.年鑑ベスト・アンソロジーのリニューアルについて

 本格ミステリ作家クラブ選・編の年鑑ベスト・アンソロジー(ノベルス版とその文庫版)は、当クラブと講談社で協議し、以下のリニューアルを行うことで合意した。
・現在のボリュームでは高価格になるため、収録作数を減らし、スリム化・低価格化を図ることで訴求力を高める。
・来年以降、新規に編纂するアンソロジーは、ノベルス版を経て文庫化するのではなく、最初から文庫版で刊行する。
・ノベルス版『ベスト本格ミステリ2015』~『ベスト本格ミステリ2018』に関しては、ノベルス版の収録作選考過程で特に評価が高かった上位5作を抜き出した形で文庫化する。このスリム化により、価格を千円以下に抑える。
・スリム化した文庫版の第一弾『ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選 001』は、2018年12月刊行。収録作は次の通り。

芦沢央「許されようとは思いません」
下村敦史「死は朝、羽ばたく」
織守きょうや「三橋春人は花束を捨てない」
大山誠一郎「心中ロミオとジュリエット」
歌野晶午「舞姫」
・解説 廣澤吉泰

・『ベスト本格ミステリ2016』~『ベスト本格ミステリ2018』の3冊も同様にスリム化した形で順次文庫化し、次いで2018年発表作品から5作程度を選んだオリジナル文庫アンソロジー『〇〇2019(仮。タイトル検討中)』を編纂する。これら4冊は2019年中に刊行するが、スケジュールについては講談社と協議中。

5.新入会員の紹介

阿(あ)藤(とう) 玲(れい)(佳多山大地/東川篤哉=推薦)
自己紹介=197X年岡山県生まれ。2017年『お人好しの放課後』(東京創元社)でデビュー。2018年8月、続編の『お節介な放課後』を上梓。新本格ムーヴメントの頃、読書の達人たちに囲まれて、ミステリばかり読んでいたのが青春の思い出です。よろしくお願いいたします。(2018.10)
推薦理由=阿藤玲氏の作品は新本格ミステリのひとつの核心である青春小説としての魅力にあふれ、今後の活躍が大いに期待できる。(佳多山大地)

イクタケマコト(天祢 涼/千澤のり子=推薦)
自己紹介=福岡県生まれ。横浜市在住。ミステリの挿絵や装丁、ミステリ作家の似顔絵などを多く手がける。マンガ「名探偵ネーコンの事件簿」を連載中。 (2018.6)
推薦理由=ミステリへの造詣が深く、すばらしいイラストレーターでもあるイクタケさんは、ミステリの新たな可能性を切り開いてくださると思います。(天祢 涼)

稲(いな)羽(ば)白(はく)菟(と)(千澤のり子/千街晶之=推薦)
自己紹介=大阪市生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。著書は第9回「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」準優秀作『合邦の密室』。本格ミステリはギリシャ悲劇の様に恐ろしい運命に対峙する人間の姿を描く事ができる、現在稀有な文学手法だと信じています。(2018.10)
推薦理由=稲羽白菟さんは、アガサ・クリスティ、横溝正史、島田荘司作品を特に敬愛し、本格ミステリ独自の人間ドラマに着目して実作で示そうとしている気鋭の方です。本クラブ会員にふさわしいと思い、推薦いたします。(千澤のり子)

今(いま)村(むら)昌(まさ)弘(ひろ)(大崎 梢/太田忠司=推薦)
自己紹介=長崎県生まれ。岡山大学卒。『屍人荘の殺人』で第二十七回鮎川哲也賞受賞。(2018.10)
推薦理由=デビュー昨『屍人荘の殺人』がミステリ系の各賞を総なめ。第18回本格ミステリ大賞も受賞。今後の活躍が期待される新鋭です。(大崎 梢)

七(なな)尾(お)与(よ)史(し)(深水黎一郎/関根 亨=推薦)
自己紹介=静岡県生まれ。歯科医師。2010年7月、第8回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉としてデビュー。デビュー作は『死亡フラグが立ちました!』。趣味は映画鑑賞。そーいえば最近YouTubeでゲーム実況初めました。(2018.8)
推薦理由=「このミス」の隠し玉でデビューされた七尾さんは、その後も質の高いミステリを書き続けられており、本会に推薦すべき人物だと確信しています。(深水黎一郎)

(2018.10.24発行)